本部会では,単一の個体あるいは物体がそれ自体で持っている能力をはるかに超える能力や特性を群れ(スワーム)を形成することにより発現する現象,またはそれらの構成法や解析法を含み,群れ(スワーム)関連のシステム分野を担当する.動物行動学あるいは進化生態学などの生物学分野では,群れは個体が緊密に集まった状態で何らかの個体間相互関係が成立している集まりと解釈されている.しかし,その群れの行動は予測困難な場合がほとんどである.例えば,ムクドリの群れがねぐらへ帰るときに見せる群れ行動,社会性昆虫のアリに観測される役割分担や利他的行動など,いまだに学説の域にある.しかし,近年,大量のデータ解析に基づく行動数理モデルが構築されつつあり,大きなブレイクスルーが期待される.本部会では,これら現代的生物学知見が適用できる自律分散システム設計論の構築を目指し,スワームシステム分野の開墾を担当する.
スワームシステムのような草創期にある学際領域においては,それに興味をもつ研究者はさまざまな分野に分散しており,互いの連携が取りづらいことが足かせになっている.そこで,これらの研究者が一堂に会して互いのビジョンについて自由闊達に語り,最新の研究成果や内外の動向などの情報交換ができる場の必要性を感じ,2011年にスワームロボティクス調査研究会を発足させた.これまで3年間の活動を通し,本領域の潜在能力の高さや学際的な広がりを認識できた.引き続き,この全貌が未知である新学術領域の基盤を確立させ,さらに持続的に発展させるためには,部会を設置して活発な活動を継続していくことが必要である.本部会では,主に定例研究会の開催およびオーガナイズドセッション等の企画により,この領域の基盤づくりを行う.定例研究会では,研究成果や進捗の報告,専門家を招いての勉強会,研究相談やオープン問題に関する討論,公開セミナー等を行う.定例研究会のうち一回は,より深い討論が可能なように合宿形式とする.
14:00-14:10:受付
14:10-14:20:主催挨拶(副主査 大倉和博)
14:20-16:00:講演1
講演者:石黒章夫先生(東北大学 電気通信研究所)
講演題目:動物の適応的運動機能に潜む制御原理の解明を目指して
概要:生き物は,身体に有する膨大な自由度を巧みに操りながら,予測不能的に変動する実世界環境にうまく適応している.このからくりが理解できれば,生物学的にはもちろんのこと,ロボット工学的にも大いに資することが期待できる.しかしながら,生物制御のからくりを抽出(数理モデリング)する過程では,さまざまな恣意性が入る可能性が否めない.その結果,当該現象をうまく説明できうる「スッキリと本質を掴んだ」数理モデルを構築することは困難を極めるのが普通である.本講義では特に,四脚動物の脚間協調現象に内在する自律分散制御のからくりの抽出に関するわれわれの事例研究を採り上げる.正直に言いましょう.この事例研究は,モデリングがたまたまうまくいき,われわれ自身も当初は想像できなかったようなラッキーな結果がぞろぞろと出つつある研究である.それゆえに,この事例研究の成果からは学ぶべきことがたくさん詰まっていると思うので,そこから生き物が示す「コト」のモデリングの際のツボと注意点(罠)を,後付け説明をしながらみなさんと一緒に議論したいと思う.
16:00-16:15:休憩(15分間)
16:15-17:55:講演2
講演者:河田雅圭先生(東北大学大学院 生命科学研究科)
講演題目:生物はなぜ適応を妨げられるのか
概要:自然選択による進化の古典的な考え方で,進化の方向性や速度は自然選択によって制限されていると見なされてきた.また,行動生態学の分野では,最適な行動が進化するという作業仮説をもとに研究がなされている.しかし,生物進化の機構には,適応進化を制限する様々な要因が存在する.また,進化しやすい生物や性質がある一方で,進化が制限されている生物や性質がある.さらに,そのような進化可能性や制約を創り出す要因の一つは遺伝的変異の維持・創出機構にある.遺伝的変異量に影響する要因として,生物の移動分散,遺伝子と表現型の関係,遺伝的基盤(ゲノム構造や遺伝子制御ネットワーク構造など)が重要である.本講演では,適応進化を妨げる要因,あるいは促進する要因とその重要性について議論する予定である.また,同時に生物個体の適応と集団の適応との関係についても議論したい.
17:55-18:00:主催挨拶(主査:松野文俊)
夏に仙台にて開催を計画しています.詳細が確定次第,アナウンスいたします.
11月10〜12日に群馬県伊香保で開催される第57回 自動制御連合講演会にて実施予定です.
群れを理解し,操り,作る
郡司幸夫先生(早稲田大学基幹理工学部),辻和希先生(琉球大学農学部),高玉圭樹先生(電気通信大学大学院情報理工学研究科),滑川徹先生(慶應義塾大学理工学部)
計測制御学会学会誌・計測と制御2013年3月号にて,「スワーム:群れの創発的挙動生成」が発刊されました.【SICEサイト内の紹介・目次】
松野文俊,大倉和博
- 【総論】スワーム:群れの創発的挙動生成,大倉 和博
- 【解説】社会性昆虫における分業システムのモデリング,土畑 重人・辻 和希
- 【解説】競争・同調・社会的促進,松島 俊也・Chentao WEN・小倉 有紀子・綱田 英敏
- 【解説】ミナミコメツキガニ放浪集団の維持機構の解明へ向けた基礎実験,森山 徹・中原 純・隈江 俊也
- 【解説】アリの集団採餌における方位情報の選択と切り替え,萩原 悠佑・秋野 順治・西森 拓
- 【解説】鳥の群れの動態解析と数理モデル,早川 美徳
- 【招待論文】Parallel Formation of Differently Groups in a Robotic Swarm, Carlo Pinciroli・Rehan O'Grady・Mauro Birattari・Marco Dorigo
- 【解説】アリの行動シミュレータ構築と生態の理解,松野 文俊・花本 惣平
- 【解説】群れ形成の動力学,成瀬 継太郎
- 【解説】スワームロボティクスのための進化型人工神経回路網,松村 嘉之・大倉 和博
- 【解説】人工生物の群れ行動のモデリングとその行動獲得,古川 正志・岩館 健司・鈴木 育男・山本 雅人・渡辺 美知子
- 【解説】場を改変することでコミュニケーションするロボット群,藤澤 隆介・土畑 重人・菅原 研
- 【解説】スワームロボティクスの実践的課題,久保 正男
- 【解説】マルチエージェントシステムにおけるダイナミクスと合意協調制御,滑川 徹
- 【解説】大規模構造物組み立てにおける複数移動ロボットの主従関係交換によるデッドロック回避,高玉 圭樹・大谷 雅之
私たちは刻一刻と変化する環境の中で,状況に応じた行動をとることができる.他者が存在する社会環境では,個体間の相互作用は脳にどのように働き適応的な行動発現にかかわるのだろうか?ほとんどの動物で普遍的に見られる攻撃行動を題材として,社会的な適応行動の発現メカニズムの解明に迫る.
闘争行動は,餌・縄張り・交尾相手などを争い,時に激しい攻撃を伴う.また,闘争はどちらか一方が引き下がると終結し,個体間に優劣関係が構築される.昆虫では,種内や異種間の攻撃を伴う闘争行動を容易に再現で,脳機能と行動を関連づけて議論しやすい.研究会では,アリやコオロギなどの昆虫の攻撃行動を題材として,昆虫の個体間相互作用が脳内生体アミンの働きを調節することで,個体の内部状態を実時間で変化させ,適応的な行動の動機付けや発現にかかわることを紹介する.また,生物実験をもとに提案したシステムモデルと計算機シミュレーションの結果,個体間相互作用と脳神経系に内在する多重フィードバック構造が適応的な行動の発現に重要であることを議論する.
いかなる生物も取り巻く環境の中で生活を営んでおり,程度の差こそあれ環境は変動する.生物には,環境に応答して形質を変化させる「表現型可塑性」が備わっており,可塑性そのものも進化する形質として後世に受け継がれている.我々の研究グループでは,一部の昆虫類が示す環境依存的な表現型改変機構である「表現型多型」について,社会性昆虫やアブラムシ,ミジンコなどを研究対象として研究を進めてきた.本講演では,それらの例をもとに,昆虫類がどのように環境を察知して表現型の変更を行っているのか,またそういった表現型可塑性がどう生物進化に影響を与えるのかについて,研究例を紹介すると共に議論を深めていきたい.具体的には,環境センシングから,生理機構(神経機構や内分泌機構)を経て発生機構(あるいは行動発現機構)に伝達されていくのかについて解説し,応答の異なる集団間などでの差違にまつわる研究例を紹介しながら進化的な考察をしていきたい.
本講では,「動くモノ」に対して抽象的に感じることがある「知能」をできるだけ具体的に理解するための接地点を求めることを考える.そのために「知能を感じる条件」を考察し,それをもとに「知能の始原」を特定することを試みる.その結果,知能の始原はそのモノの身体と場の相互作用に存在するという考え方が導かれる.そしてその作用を数理的に理解するには制御学の考え方を導入することが妥当であるという考えを示す.最後に,この考え方に則っていると見える事例をいくつか紹介する.
女王とワーカーがコロニーを作って暮らすアリはとても働き者であると思われています。しかし、巣の中を観察してみると、ある瞬間には7割ほどのワーカーは何もしておらず、長時間観察しても、1〜2割のワーカーはほとんど労働と見なせる行動を取りません。アリは案外働き者ではないのです。ここで、働かないハタラキアリがいつも存在するようなシステムは、全員がいつも働いているシステムよりも必ず、短期的な生産性が低くなります。コロニーの生産性を高めるように自然選択が働いているはずのアリで、なぜ一部がいつも働かなくなるようなことが進化しているのでしょうか。本講演ではこの問題を、科学の両輪であるHow(どのような機構で起こっているのか)とWhy(なぜそんな機構が存在するのか)の疑問から解明します。その課程で、システムの進化を考えるとき、従来の進化理論で軽視されていた、存続性の確保という観点の進化的重要性を明らかにしたいと考えています。
徳島文理大・伊藤悦朗先生に「ミツバチ8の字ダンスのエラーによる効果」,京都大・松浦健二先生に「シロアリ社会における繁殖の組織化と労働の自己組織化」という題目でキーノート講演をしていただきました.
Swarm intelligence is the discipline that deals with natural and artificial systems composed of many individuals that coordinate using decentralized control and self-organization. In particular, it focuses on the collective behaviors that result from the local interactions of the individuals with each other and with their environment. In the talk I will overview some interesting social insect behaviors and then describe some computer science and engineering applications that took inspiration from these behaviors. In particular, I will discuss the food foraging behavior of ants and how it inspired a methodology for the approximate solution of difficult discrete optimization problems and the self-assembly and cooperative transport observed in some ant species and the corresponding behaviors implemented in swarms of robots.
演者らはアリの社会をシステムとして捉え,その世代を超えた時間スケールで生じるダイナミクス(進化)と世代内で生じるダイナミクス(社会生理学)という2つの力学系について話題を提供する.近年,進化生態学ではハチ目の社会を支える不妊ワーカーの利他行動は,ワーカーが互いに利己的に振る舞うのを監視・抑制(ワーカーポリシング)することで成立しているのではと議論されている.Ohtsuki & Tsuji (2009)は動的ゲームモデルによりワーカーポリシングが進化する一般的条件を提示した.このモデルにより従来統一的な説明が困難だった女王単婚下でのワーカーポリシングの存在を説明する一方で,若い小さなコロニーでは強いポリシングが起こり成熟したコロニーでは弱まるとの新しい予測を導いた.トゲオオハリアリではこのコロニーサイズ依存の予測を強く支持する実験データが得られている.しかし,アリはコロニーサイズの変化をいかに知り行動を変えるのか.アリがコロニーサイズを「知っている」ことはアリ学者には周知の事実だが,その具体的仕組みはほとんど未解明である.そこでこの系を用いアリがコロニーサイズに依存し行動を切り替える至近メカニズムを自己組織化と自律分散という観点から解明を試みた.本研究では進化と社会生理学という2つの力学系の相互作用を議論する.
動物は,なぜ群れるのか?この問題に対して,行動生態学は非常に見通しの良い定量的フレームを提供してきた.採餌経済にシナジー効果があると,個体の戦術はproducers(生産者)とscroungers(掠奪者)に分かれて均衡する.この中で個体が自己の収益を最大化すると,その行為は個体の最適化から見掛け上の逸脱を示す.今回はヒヨコ(ニワトリのヒナ)を用いた実験室内の行動の解析をしめしながら,資源競合下における衝動性と同調の制御機構を探る試みを紹介する.
亜熱帯地方の干潟に生息するミナミコメツキガニは,数千から成る放浪集団を形成する.この集団中に小型移動体を投入すると,カニと人工物から成る新たな集団が生まれるだろうか.実験の特徴は,実験者が,小型移動体に搭載される無線カメラから送られる映像だけを頼りに移動体を遠隔操作する点である.講演では,これまでの実験で得られた放浪集団の特徴と,移動体投入実験の計画を紹介する.
制御理論,通信理論,計算科学の進展が,我々の身の回りの動的システムを多機能化,高機能化させ,その結果益々対象システムは大規模複雑化している.大規模複雑系には,ネットワーク構造が内在し,複数の動的エージェントがこのネットワークを介して相互作用し合う.このようなシステムはマルチエージェントシステムと呼ばれ,その応用は,ビークルフォーメーション,協調ロボット制御,センサネットワーク,スマートグリッドなど多岐に渡る.一方で複雑系・力学系やシステム生物学の解析ツールとしても研究が進んでいる.近年,システム制御理論の分野においてマルチエージェントシステムに関する研究が活発に行なわれており,本稿では特にマルチエージェントシステムにおけるダイナミクスと合意協調制御則,その制御理論的な性質を解説する.また応用展開に関して,国内外の研究の趨勢をご紹介する.
神戸大・郡司ペギオ幸夫先生に「相互予期が形成する群れの構造」という題目でキーノート講演をしていただきました.
単一ロボットでは問題解決が困難なタスクに対して,構造が比較的簡単で安価に構築可能な自律ロボットを多数用いて解決策を提示しようとする分野が急速に注目を浴びるようになってきている.現在,この分野はスワームロボティクスと呼ばれており,群知能を物理的に具現化されたシステムに適用する手法に関する研究分野であると認識されるようになっている.この新学術領域の必須の条件として,大域的情報を収集して各ロボットに指示を出すようなスーパーエージェントが存在しないことがあげられる.結果として,スワームの群れ行動は各ロボットの局所的相互作用から必ず創発的に生成される.この枠組みのもと,有意義な群れ行動の生成方式の一つとして,アリのような社会性昆虫の生態を模倣した制御方式が有効であると考えられている.本調査研究会では,これらの具体的設計論や各タスクへの適用方法を探り,スワームロボットシステムの設計方法論について調査・検討することを目的とする.調査研究会の継続により,これまでの成果発表,および研究領域の啓蒙により一層注力する.
まず,スワームロボティクス分野の重要性とその高い潜在能力を本学会構成員に対し広く啓蒙しながら我が国におけるスワームロボティクス研究を統括し,最新の研究動向を共有する.それとともに様々なアイデアを調査・検討していきながら,スワームロボティクスを現在の萌芽段階から確固とした一つの方法論として確立できるように,研究会や講演会の開催などを行い,全体的研究レベルの向上のための環境基盤の整備を行う.
これまでスワームロボットシステムで取り扱われて来た代表的タスクは,(1)集合,(2)拡散,(3)餌拾い,(4)パターン形成,(5)連結された集団での群れ行動,(6) 協調搬送などがある.それぞれ異なる困難性を持つため,それぞれに異なるアプローチの設計方針が取られることが多かった.本調査研究会では,これらのタスク群に対し広範囲に適用可能な方法論に関して検討を行う.特に,社会性昆虫の生態に動機付けられた制御方式に重点を置き,その有効性について検討する場を提供する.また,ロボットプラットフォームの設計・開発を行う.
広島大・西森拓先生に「アリの集団採餌における判断と行動」,東北大・早川美徳先生に「鳥の群れの集団動力学」という題目でキーノート講演をしていただきました.