単一ロボットでは問題解決が困難なタスクに対して,構造が比較的簡単で安価に構築可能な自律ロボットを多数用いて解決策を提示しようとする分野が急速に注目を浴びるようになってきている.現在,この分野はスワームロボティクスと呼ばれており,群知能を物理的に具現化されたシステムに適用する手法に関する研究分野であると認識されるようになっている.この新学術領域の必須の条件として,大域的情報を収集して各ロボットに指示を出すようなスーパーエージェントが存在しないことがあげられる.結果として,スワームの群れ行動は各ロボットの局所的相互作用から必ず創発的に生成される.この枠組みのもと,有意義な群れ行動の生成方式の一つとして,アリのような社会性昆虫の生態を模倣した制御方式が有効であると考えられている.本調査研究会では,これらの具体的設計論や各タスクへの適用方法を探り,スワームロボットシステムの設計方法論について調査・検討することを目的とする.調査研究会の継続により,これまでの成果発表,および研究領域の啓蒙により一層注力する.
まず,スワームロボティクス分野の重要性とその高い潜在能力を本学会構成員に対し広く啓蒙しながら我が国におけるスワームロボティクス研究を統括し,最新の研究動向を共有する.それとともに様々なアイデアを調査・検討していきながら,スワームロボティクスを現在の萌芽段階から確固とした一つの方法論として確立できるように,研究会や講演会の開催などを行い,全体的研究レベルの向上のための環境基盤の整備を行う.
これまでスワームロボットシステムで取り扱われて来た代表的タスクは,(1)集合,(2)拡散,(3)餌拾い,(4)パターン形成,(5)連結された集団での群れ行動,(6) 協調搬送などがある.それぞれ異なる困難性を持つため,それぞれに異なるアプローチの設計方針が取られることが多かった.本調査研究会では,これらのタスク群に対し広範囲に適用可能な方法論に関して検討を行う.特に,社会性昆虫の生態に動機付けられた制御方式に重点を置き,その有効性について検討する場を提供する.また,ロボットプラットフォームの設計・開発を行う.
計測制御学会学会誌・計測と制御2013年3月号にて,「スワーム:群れの創発的挙動生成」が発刊されました.【SICEサイト内の紹介・目次】
松野文俊,大倉和博
- 【総論】スワーム:群れの創発的挙動生成,大倉 和博
- 【解説】社会性昆虫における分業システムのモデリング,土畑 重人・辻 和希
- 【解説】競争・同調・社会的促進,松島 俊也・Chentao WEN・小倉 有紀子・綱田 英敏
- 【解説】ミナミコメツキガニ放浪集団の維持機構の解明へ向けた基礎実験,森山 徹・中原 純・隈江 俊也
- 【解説】アリの集団採餌における方位情報の選択と切り替え,萩原 悠佑・秋野 順治・西森 拓
- 【解説】鳥の群れの動態解析と数理モデル,早川 美徳
- 【招待論文】Parallel Formation of Differently Groups in a Robotic Swarm, Carlo Pinciroli・Rehan O'Grady・Mauro Birattari・Marco Dorigo
- 【解説】アリの行動シミュレータ構築と生態の理解,松野 文俊・花本 惣平
- 【解説】群れ形成の動力学,成瀬 継太郎
- 【解説】スワームロボティクスのための進化型人工神経回路網,松村 嘉之・大倉 和博
- 【解説】人工生物の群れ行動のモデリングとその行動獲得,古川 正志・岩館 健司・鈴木 育男・山本 雅人・渡辺 美知子
- 【解説】場を改変することでコミュニケーションするロボット群,藤澤 隆介・土畑 重人・菅原 研
- 【解説】スワームロボティクスの実践的課題,久保 正男
- 【解説】マルチエージェントシステムにおけるダイナミクスと合意協調制御,滑川 徹
- 【解説】大規模構造物組み立てにおける複数移動ロボットの主従関係交換によるデッドロック回避,高玉 圭樹・大谷 雅之
本講では,「動くモノ」に対して抽象的に感じることがある「知能」をできるだけ具体的に理解するための接地点を求めることを考える.そのために「知能を感じる条件」を考察し,それをもとに「知能の始原」を特定することを試みる.その結果,知能の始原はそのモノの身体と場の相互作用に存在するという考え方が導かれる.そしてその作用を数理的に理解するには制御学の考え方を導入することが妥当であるという考えを示す.最後に,この考え方に則っていると見える事例をいくつか紹介する.
女王とワーカーがコロニーを作って暮らすアリはとても働き者であると思われています。しかし、巣の中を観察してみると、ある瞬間には7割ほどのワーカーは何もしておらず、長時間観察しても、1〜2割のワーカーはほとんど労働と見なせる行動を取りません。アリは案外働き者ではないのです。ここで、働かないハタラキアリがいつも存在するようなシステムは、全員がいつも働いているシステムよりも必ず、短期的な生産性が低くなります。コロニーの生産性を高めるように自然選択が働いているはずのアリで、なぜ一部がいつも働かなくなるようなことが進化しているのでしょうか。本講演ではこの問題を、科学の両輪であるHow(どのような機構で起こっているのか)とWhy(なぜそんな機構が存在するのか)の疑問から解明します。その課程で、システムの進化を考えるとき、従来の進化理論で軽視されていた、存続性の確保という観点の進化的重要性を明らかにしたいと考えています。
Swarm intelligence is the discipline that deals with natural and artificial systems composed of many individuals that coordinate using decentralized control and self-organization. In particular, it focuses on the collective behaviors that result from the local interactions of the individuals with each other and with their environment. In the talk I will overview some interesting social insect behaviors and then describe some computer science and engineering applications that took inspiration from these behaviors. In particular, I will discuss the food foraging behavior of ants and how it inspired a methodology for the approximate solution of difficult discrete optimization problems and the self-assembly and cooperative transport observed in some ant species and the corresponding behaviors implemented in swarms of robots.
演者らはアリの社会をシステムとして捉え,その世代を超えた時間スケールで生じるダイナミクス(進化)と世代内で生じるダイナミクス(社会生理学)という2つの力学系について話題を提供する.近年,進化生態学ではハチ目の社会を支える不妊ワーカーの利他行動は,ワーカーが互いに利己的に振る舞うのを監視・抑制(ワーカーポリシング)することで成立しているのではと議論されている.Ohtsuki & Tsuji (2009)は動的ゲームモデルによりワーカーポリシングが進化する一般的条件を提示した.このモデルにより従来統一的な説明が困難だった女王単婚下でのワーカーポリシングの存在を説明する一方で,若い小さなコロニーでは強いポリシングが起こり成熟したコロニーでは弱まるとの新しい予測を導いた.トゲオオハリアリではこのコロニーサイズ依存の予測を強く支持する実験データが得られている.しかし,アリはコロニーサイズの変化をいかに知り行動を変えるのか.アリがコロニーサイズを「知っている」ことはアリ学者には周知の事実だが,その具体的仕組みはほとんど未解明である.そこでこの系を用いアリがコロニーサイズに依存し行動を切り替える至近メカニズムを自己組織化と自律分散という観点から解明を試みた.本研究では進化と社会生理学という2つの力学系の相互作用を議論する.
動物は,なぜ群れるのか?この問題に対して,行動生態学は非常に見通しの良い定量的フレームを提供してきた.採餌経済にシナジー効果があると,個体の戦術はproducers(生産者)とscroungers(掠奪者)に分かれて均衡する.この中で個体が自己の収益を最大化すると,その行為は個体の最適化から見掛け上の逸脱を示す.今回はヒヨコ(ニワトリのヒナ)を用いた実験室内の行動の解析をしめしながら,資源競合下における衝動性と同調の制御機構を探る試みを紹介する.
亜熱帯地方の干潟に生息するミナミコメツキガニは,数千から成る放浪集団を形成する.この集団中に小型移動体を投入すると,カニと人工物から成る新たな集団が生まれるだろうか.実験の特徴は,実験者が,小型移動体に搭載される無線カメラから送られる映像だけを頼りに移動体を遠隔操作する点である.講演では,これまでの実験で得られた放浪集団の特徴と,移動体投入実験の計画を紹介する.
制御理論,通信理論,計算科学の進展が,我々の身の回りの動的システムを多機能化,高機能化させ,その結果益々対象システムは大規模複雑化している.大規模複雑系には,ネットワーク構造が内在し,複数の動的エージェントがこのネットワークを介して相互作用し合う.このようなシステムはマルチエージェントシステムと呼ばれ,その応用は,ビークルフォーメーション,協調ロボット制御,センサネットワーク,スマートグリッドなど多岐に渡る.一方で複雑系・力学系やシステム生物学の解析ツールとしても研究が進んでいる.近年,システム制御理論の分野においてマルチエージェントシステムに関する研究が活発に行なわれており,本稿では特にマルチエージェントシステムにおけるダイナミクスと合意協調制御則,その制御理論的な性質を解説する.また応用展開に関して,国内外の研究の趨勢をご紹介する.
神戸大・郡司ペギオ幸夫先生に「相互予期が形成する群れの構造」という題目でキーノート講演をしていただきました.
広島大・西森拓先生に「アリの集団採餌における判断と行動」,東北大・早川美徳先生に「鳥の群れの集団動力学」という題目でキーノート講演をしていただきました.