Animated Robot

人形やおもちゃのロボットに生命(いのち)を感じることはないのに,わたしたちが人間やペット,昆虫などの生物に生命を感じるのはなぜでしょうか.体が温かいとか会話をする,などが浮かぶかもしれませんが,体が温かくない生物もいれば会話もできない生物はたくさんいます.ヒトがモノを見て生命を感じるのは,生物が自分で判断して行動をすることができる,という点が大きな要因の一つといえるでしょう.

生物は,自身のおかれた環境において,視覚や聴覚,触覚などのセンサを通して環境を認識し,誰からもリモートコントロールされることなく自らの判断で行動します.ときには他から予期せぬ行動をとることもあります.自律系工学研究室では,自らが仮想環境の中で進化して,自分で判断して行動することのできる仮想ロボットを開発しています.

 
陸上と水中の異なる環境で歩行と遊泳をするサラマンダーロボット

自分で判断して行動することのできるロボットの開発は,現実世界において,生物が進化を遂げてきた様子によく似ています。重力や地面との摩擦,物体同士の衝突,空気抵抗や水の抵抗などを高速にシミュレートする仮想的な環境をコンピュータ内に用意し,生物を模した仮想ロボットをモデル化(デザイン)します.その際,動かせる関節の位置や可動域なども指定します.仮想ロボットには環境を知覚するセンサがつけられ,自身がおかれた環境の状況を認識できます.そして,各関節をどのように動かすかを行動コントローラ(人間の脳のしくみを真似たニューラルネットワーク)によって決定し,実際に仮想環境内で行動をしてみます.はじめは行動コントローラはランダムに与えられるため,手足をバタバタさせるようなランダムな行動をしますが,より遠くに移動するような行動コントローラには良い評価を与えることによって,より良い評価を与えるような行動コントローラを数百,数千回のシミュレーションの後にどんどん進化させていきます.まさに,ヒトが赤ちゃんから成長していくにしたがって,歩いたり手足を自由に動かすことができる様子に似ています.

上の動画は,そのようにして獲得したサラマンダーの歩行行動と遊泳行動を示しています.サラマンダー(サンショウウオ)は,陸上では歩行し,水中では遊泳をする両生類で,このロボットの作成者は,手足をどのタイミングでどのように動かすのか,ということを一切指示していない(デザインしていない)にも関わらず,ロボットは,自身の仮想環境での経験からより移動しやすい歩行行動を進化させていくのです.

 
連続跳躍をするバッタ

サラマンダーロボットは歩行や遊泳といった行動を獲得できましたが,もっと複雑な行動をするためにはどうすればよいでしょうか.自律系工学研究室では,個々の基本的な動作を行うことができるための行動コントローラを進化させたのち,複数の行動コントローラを組合せて複雑な行動をとるようにさらに進化させます.状況に応じて,基本的な行動をどのように組合せれば良いかを進化によって獲得するわけです.

以下の動画は,バッタの連続跳躍行動を進化させたものです.バッタの跳躍行動は難しく,飛び上がる体制から足を一気に伸ばしてジャンプをしたあと,空中で姿勢を保ちつつ,着地のために足を戻します.しかし,着地で転倒することもあるので,そこから起き上がり,さらに足をしっかり戻して次のジャンブに備えます.これらの一連の行動は非常に複雑で,状況に応じて使えわけなければなりません.

動画では,前半が「跳躍」「起き上がり」「足戻し」といった基本的行動を進化させた結果について,後半がそれらを組合せて連続跳躍をすることができるようになった動画です.ただ,現在の評価では空中での姿勢を評価していないために,空中で回転するような行動が出ています.これは実際の生物ではありえない行動でもあるので,現在は,さらなる改良を行なっています.

水流のある培養環境における海藻の絡みシミュレーション
 〜海洋バイオマスによる環境保全の取り組みに向けて

Animated Robot (アニボット)の研究対象は動物に限りません.海藻などの植物についての研究もご紹介しましょう.近年,二酸化炭素の排出量規制など環境破壊に対する取り組みが積極的になされています.メガソーラーなどによる発電なども既に大規模な試験がなされつつありますが,そんな中で火力発電所や廃棄物焼却炉から排ガスや廃棄物を藻類に転換しようとする試みもなされ,海洋バイオマス研究が近年急速に注目を集めています.

海洋バイオマス研究においては,藻類などを絡むことなく光合成を促進させるように培養するための環境が重要となります.自律系工学研究室では,そのような環境を仮想空間上にシミュレートして,海藻の絡みを防ぎつつ培養可能な環境の制御に関する研究を行なっています.

上の動画は複数の水流パターンに対して海藻の絡みの原因となる海藻間の接触がどれほどになるかを観察している様子です.様々な環境での実験の結果,水流はある時間間隔で向きを変更することが有効であることが示されました.